自筆証書遺言の偽造 |渋谷区初台の【アストレア法律事務所】

自筆証書遺言の偽造

 自筆証書遺言を本人が書いていない場合には、その遺言は無効となります。
 裁判で、その遺言を遺言者本人が書いたかどうか(他人が偽造したかどうか)が争いになった場合には、筆跡鑑定が重要な証拠となります。

筆跡鑑定について

 裁判では、当事者が行った筆跡鑑定書を証拠として提出するほか、当事者の申し出により裁判所が筆跡鑑定を行うこともあります。裁判所が筆跡鑑定を行う場合、裁判所が鑑定人を選び、その鑑定人に宣誓の上、筆跡鑑定を行わせます。この場合の鑑定費用(鑑定人によって異なりますが、30万円~50万円程度)は当事者の負担であり、通常は原告と被告が折半します。

 筆跡鑑定は、本人が書いたことに争いがない筆跡(対照筆跡)と比べて、同じ人が書いたかどうかを判断するものであり、対照筆跡が存在していることが不可欠です。

対照筆跡を探す場合のポイント

  • ア 人の筆跡は、年齢により変化しますので、対照筆跡は、遺言を書いた時点にできる限り近い時点で書いたものがよい。
  • イ 遺言に書かれている文字と同じ文字を含んでいた方がよい。特に、名前の文字は不可欠です。
  • ウ 筆跡は、体調や気分によっても変化しますし、遺言を書くという改まった気持ちで丁寧に書く場合と、普段に気軽に書く場合では筆跡が異なるということもありますので、対照筆跡は多い方がよい。

 筆跡鑑定では、多くの対照筆跡の中から本人の筆跡の特徴を探し出し、遺言の筆跡にその特徴が現れているかどうかを検討することになります。
 そこで、鑑定を行う場合には、まず、原被告間で、対照筆跡を選ぶことから争いになり、原被告間で合意できた対照筆跡のみを鑑定人に提供して、筆跡鑑定をしてもらいます。

 裁判官が判決をする場合、筆跡鑑定の結果には拘束されません。本人がその遺言を書いたかどうかは、「自由心証」と言って、裁判官が自由に判断するものですので、折角、当事者が高いお金を出して裁判所が選んだ鑑定人に筆跡鑑定をしてもらっても、無駄になってしまうことがあるのです(もっとも、裁判官は、何の理由も述べないで鑑定結果を採用しないことはできませんので、鑑定結果を採用できないそれなりの理由は、判決において述べる必要はあります)。
 したがって、その鑑定結果が自分の言い分どおりだからといって安心できませんし、逆に、自分の言い分と違っていたからといって、それで判決で負けることが決まったという訳ではありません。

遺言を本人が書いたかどうかが争われた場合に問題となる事情

 上記のとおり、筆跡鑑定だけで、遺言を本人が書いたかどうかが決まる訳ではありませんので、裁判においては、遺言を本人が書いた、あるいは書いていないことを裏付ける様々な事情を主張し、それに関する証拠を出す必要があります。
 そのような事情としては、以下のものがあります。

本人(遺言者)が書いたことを裏付ける事情 本人(遺言者)が書いていないこと=偽造されたことを裏付ける事情
遺言の内容の公平性 相続人を公平に扱っている 特定の相続人に全部を相続させる、第三者に全部を遺贈するような偏った内容
以前に本人が書いた遺言の内容との比較 同じ、大体同じ 大きく異なる。矛盾している。
遺言を書く前後や書いた後に本人が言っていたこととの比較 同じようなことを言っていた 言っていたことと大きく異なる。矛盾している。
その遺言によって利益を受ける者は本人の面倒をみていたか 本人の面倒をみていた。よく出入りしていた。 本人の面倒をみていなかった。本人とあまり会っていなかった。
その遺言によって利益を受ける者に対する本人の感情 親しい 疎遠。嫌っていた。
本人の健康状態 字を書くのに問題はなかった。 麻痺等により字を書ける状態ではなかった。滑らかな字は書けなかった。
本人の判断能力 遺言の内容を書くための判断能力があった。 認知症等により判断能力がなかった。
その遺言が作成された当時の押印されている印鑑の保管状況 本人が保管していた。 その遺言によって利益を受ける者が保管していた。本人が保管していたが、その遺言によって利益を受ける者も自由に持ち出すことができた。
遺言書の保管状況 本人が保管していた。 その遺言によって利益を受ける者が保管していた。本人が保管していたが、最初に、その遺言によって利益を受ける者が発見した。

遺言が偽造されていた場合の法律関係

 相続人が遺言書を偽造した場合は、民法の規定(891条)により、相続権がなくなります。但し、その相続人が遺言者の子や兄弟の場合は、その相続人の子がいれば、その子が代襲相続することになります。
 また、遺言書を偽造することは私文書偽造罪、偽造した遺言書を使用することは偽造私文書行使罪にあたり、3月以上5年以下の懲役刑による処罰の対象となります。偽造した遺言で相続登記をした場合は、公正証書原本不実記載罪にもあたります。