自筆証書遺言の方式違反 |渋谷区初台の【アストレア法律事務所】

自筆証書遺言の方式違反

全文、日付、署名を自分で書くこと

 遺言書の全文を自分で書くことが必要です。
 したがって、タイプ打ちしたものや、印刷したもの、点字によるものは、無効となります。また、自分で書いたもののコピーをとって、それに署名押印しても無効です。

 筆記具に制限はありませんので、鉛筆で書いたものでも構いません。カーボン複写でもよいとされています(最高裁の判例あり)。
 なお、財産目録については、パソコンなどで作成してもよいですし、不動産の登記事項証明書や預貯金の通帳の写しを添付することもできます。この場合は、各ページに署名押印をする必要があります(両面の場合は、両面に必要)

 遺言無効の裁判で最も問題となるのは、本人が書いたかどうか(他人が偽造したかどうか)です。
 これについては、こちらをご覧ください。
⇒ 自筆証書遺言の偽造

日付について

 日付は、年月日が特定できるように記載する必要がありますが、特定できればよいので、必ず○年○月○日と書かなければならないということではありません。もちろん、これから作成する場合は、後でもめることがないように、○年○月○日ときちんと書いておいてください。

有効となる場合の例

   70歳の誕生日
   (理由)客観的に特定可能なため

無効となる場合の例

  令和6年12月   (理由)日の記載がない
  令和6年12月吉日 (理由)日が特定されていない
  12月15日     (理由)年の記載がない

問題となる場合の例

  20年12月15日

(理由)2020年か平成20年かが不明ですが、遺言の内容その他により、いずれであるかが特定できれば、遺言としては無効にならないと考えます。裁判所の判例でも、「昭和○年」との記載が、「平成○年」の明らかな誤記であるとして、遺言の効力に影響がないとした事例があり、できる限り遺言の効力を認める扱いです。

 日付が真実の遺言作成日と異なる場合も、その遺言が有効かどうか問題になります。判例は、遺言書作成日より62年近く遡った日を作成日として記載した自筆証書遺言について、単なる誤記ではなく無効であるとしました。これに対して、誤記の場合は、できる限り救済するのが判例です。最高裁は、昭和48年秋に死亡した者が、同年夏に作成した遺言に、「昭和28年」と記載した事例について、誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には有効であるとしました。

氏名について

 戸籍上の名前である必要はなく、誰が書いたものか特定されるのであれば、通称や雅号、ペンネームでも構いませんし、氏だけ、名だけでも、構いません。 

押印について

 遺言書に押す印鑑は、実印である必要はなく、認め印でも構いません。最高裁は、指印も有効と認めました。
 印鑑を押す場所は、通常は署名の後ですが、法律上は制限がありませんので、本文が書かれている紙のどこかに1か所押してあればよいことになります。最高裁は、本文には押印がなく、遺言書本文を入れた封筒の封じ目の左右に押印してある自筆証書遺言について、有効と認めました。
 
 封がされた封筒に入っている場合には、用紙が複数枚あっても、契印の必要はありません。しかし、封がされた封筒に入っていない場合には、複数枚あると、1通の遺言かどうかが争いとなりますので、契印をしておいてください。

加除訂正について

 自筆証書遺言の変更(加除訂正)については、民法に特別な方式が定められており、その方式によらないと、その変更が無効になります。
 その方式とは、①変更する場所を指示し、②これを変更した旨を付記し、③特にこれに署名し、④変更場所に印を押す、というものです。

 但し、このような方式によらずに変更した場合に無効となるのは、その変更自体にすぎません(その変更がなかったものと扱われる)ので、それによって遺言全体が無効となる訳ではありません。