公正証書遺言の方式違反
公正証書遺言の方式
- ・証人2人以上の立会いがあること
- ・遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(くじゅ)すること
- ・公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること
- ・遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。但し、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
- ・公証人が、その証書は前4号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
証人の立会い
- ①未成年者
- ②推定相続人及びその配偶者、直系血族(父母、祖父母、子、孫など)
- ③受遺者及びその配偶者、直系血族
- ④公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人
このような欠格事由にあたる者が証人として立ち会って作成された公正証書遺言は無効となります。
なお、証人は2人以上立ち会っていて、その他に、事実上、これらの欠格事由にあたる者が立ち会っていた場合に、遺言が無効となるかどうかが問題となります。これについて、最高裁判所は、「この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,当該遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず,同遺言が無効となるものではないと解するのが相当である。」としています。
したがって、「特段の事情」のない限り、遺言が無効になることはありませんが、この「特段の事情」の有無について争いになり、場合によっては遺言が無効となる場合もありますので、欠格事由にあたる者(特に上記②、③にあたる者)は遺言作成の場に立ち会わないようにしてください。
遺言の趣旨の口授(くじゅ)
「口授」とは
なお、口をきけない者の手話は、「口授」とはいえないため、かつては、公正証書遺言を作成できませんでした。しかし、現在では、手話や筆談をもって「口授」に代えることができるという規定がありますので、公正証書遺言を作成できるようになりました。
口授があったかどうかが争われる理由
1つは、「口授」があったかどうかは、遺言能力の問題と密接に関係しているからです。すなわち、遺言能力がない場合は、通常、遺言の内容を口頭で公証人に申し述べることもできないはずだと考えられますので、「口授」はなかったはずだということになります。そこで、遺言能力がないので公正証書遺言が無効であると主張する場合には、併せて、「口授」がなかったと主張することになるのです。
もう1つの理由は、民法が想定している公正証書遺言の作成の仕方と実際とが違うということです。民法では、遺言者本人が、公証人に対して、自分が作りたいと考えている遺言の内容を申し述べ(口授)、公証人がこれを筆記して、遺言者と証人に読み聞かせ、筆記が正確なことを確認してもらったうえで、署名捺印をしてもらうという手順になります。ところが、実際には、遺言者本人が主体的に動く場合は別として、遺言者とは別の第三者(親族の場合もありますし、弁護士や司法書士等の場合もあります)が、公証人に対して、遺言者が作成したいと望んでいる遺言の内容を伝え、必要な資料(戸籍事項証明書や不動産登記事項証明書等)を渡して、遺言の原稿を作成してもらい、そのような準備が終わってから、第三者が遺言者を連れて公証役場を訪れ、あるいは、公証人が病院や介護施設を訪れて、既に作成されている原稿を読み上げて、遺言者に間違いないかどうかを確認してもらい、署名捺印をしてもらうのです。そのため、「口授」があったかどうかが争いとなるのです。
裁判所の判例
また、公証人が項目ごとに区切って筆記を読み聞かせたのに対して、遺言者は、その都度そのとおりである旨を声に出して述べ、金員を遺贈する者の名前や数字の部分についても声を出して述べるなどし、最後に公証人が筆記を通読したのに対し大きく頷いて承認した事案についても、「口授」があるとして方式違反にならないとしています。
下級審の判例では、公証人が事前に作成した原稿を読み上げて、遺言者にこのような遺言でよいかどうか確認したところ、遺言者が「はい」と答えただけの場合でも、「口授」を認めています。
これに対し、遺言者が肯定又は否定の挙動をしただけの場合には口授は認められません。
遺言無効を争う場合と「口授」
したがって、遺言が無効であると主張する場合には、主として遺言能力があったかどうかを争うべきことになります。