遺言能力 |渋谷区初台の【アストレア法律事務所】

遺言能力

 遺言能力とは、遺言を有効になしうる能力であり、遺言能力がない者がした遺言は無効となります。
 一般に「遺言能力」という場合は2つの意味合いがあります。1つは、民法が直接定める遺言能力であり、もう1つは、民法が直接定めていない遺言能力です。ここでは、便宜的に、以下のとおり、「形式的な遺言能力」と「実質的な遺言能力」と呼んで区別しておきます。
 遺言が有効となるためには、どちらの遺言能力も必要です。

形式的な遺言能力(民法の定め)

民法961条

 民法961条は、「15歳に達した者は、遺言をすることができる。」と定めています。これによって、未成年者(満20歳未満)であっても、満15歳になれば、遺言能力があると認められ、遺言をすることができることになります。他方、満15歳未満の者は、どんなに知的能力が高くても遺言能力はなく、遺言をしても無効となります。なお、未成年被後見人の遺言に関しては、4で述べる制限があります。

民法962条

 民法962条は、未成年者の行為能力の制限(第5条)、成年被後見人(第9条)、被保佐人(第13条)、被補助人(第17条)の規定は、遺言には適用しないことを定めています。
 これによって、満15歳以上の者は、成年被後見人、被保佐人、被補助人であっても、原則として遺言能力が認められ、単独で遺言をすることができることになります。但し、以下のとおり、成年被後見人が遺言をするについては、制限があります。

民法973条

 成年被後見人が遺言をするについては、「事理を弁識する能力を一時回復した時において」医師2人以上の立会のもとで作成し、かつ、立ち会った医師が「遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」旨を遺言書に付記して署名捺印することが必要です。

民法966条

 成年後見人や未成年後見人が、後見の計算の終了前に、後見人やその配偶者、直系卑属(子や孫など)の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は無効となります。但し、後見人が直系血族、配偶者又は兄弟姉妹であるときは有効です。

実質的な遺言能力

 民法973条は、遺言をするには「事理を弁識する能力」が必要であることを間接的に定めています。一般的には、この能力は、「遺言の内容及び当該遺言に基づく法的結果を弁識、判断するに足りる能力」とされていますが、「遺言の内容及び当該遺言に基づく法的結果」には様々なものがありますので、それに応じて相対的に判断されることになります。即ち、簡単な内容の遺言であれば、弁識、判断の能力は低くてもよいが、内容が複雑で高度なものになれば、弁識、判断の能力も高いものが要求されるということです。
 したがって、後日、遺言能力が争われそうな場合には、できる限り単純な内容の遺言にしておくべきです。

 なお、下記のような判例もありますので、注意が必要です。
「本件公正証書遺言の内容自体は,全財産を被告Y1に遺贈するという,単純なものであるが,そのような内容の遺言をする意思を形成する過程では,遺産を構成する個々の財産やその財産的価値を認識し,受遺者である被告Y1だけでなく,その他の身近な人たちとの従前の関係を理解し,財産を遺贈するということの意味を理解する必要があるのであって,その思考過程は決して単純なものとはいえない。」(高知地方裁判所平成24年3月29日判決)

実質的な遺言能力の有無の目安

 成年被後見人が遺言をするについては、上記のとおり制限がありますが、被保佐人には制限がありませんので、このことから、遺言者が後見相当の能力しかない場合には実質的な遺言能力がなく、保佐相当の能力がある場合には、比較的単純な内容の遺言を作成するについては実質的な遺言能力があるとも考えられます。

実質的な遺言能力を争う場合の証拠

 最も重要な証拠は、遺言が作成された時点の前後に作成された医師の診断書やカルテですので、遺言者が入通院していた医療機関からカルテ等の開示を受けます。また、要介護認定については医師の診断書が必要ですので、役所から開示を受けることもできます。