認知症・アルツハイマー病について |渋谷区初台の【アストレア法律事務所】

認知症・アルツハイマー病について

以下は、弁護士青木信昭が文献を基にまとめたものですので、医学的に正確かどうかの保証はありません。参考程度にお読みください。

認知症について

 認知症とは、

  • うつ病などの機能性疾患(可逆性がある、即ち、治療により治る疾患)ではなく、器質性(不可逆性、即ち、治療により治らない)の病変により
  • 一度獲得した高次脳機能(認知機能、即ち、記憶・思考・判断・注意など)が生活に支障をきたす程度にまで低下した病態で
  • せん妄(突然起こり、良くなったり悪くなったり変動し、見当識障害、注意力と思考力の低下、意識レベルの変化を伴う認識障害)などの一過性の病態とは区別されるものです。

 また、認知症とは、単一の疾患名ではなく、多様な原因疾患で生じる症候群です。認知症を引き起こす疾患としては、アルツハイマー病や脳血管性認知症などがあり、それらにより引き起こされた症状が総称して認知症といわれているのです。それは、頭痛の中に、その原因疾患として、筋収縮性頭痛や偏頭痛があるのと同じ関係です。

アルツハイマー病について

 認知症の代表的な原因疾患として、アルツハイマー病があります。
 アルツハイマー病とは、進行性の認知症を主な症状とし、大脳の広い範囲に萎縮が見られる原因不明の病気です。
 アルツハイマー病の代表的な症状としては、次のものがあります。

記憶障害(物忘れ)
初期には、近い過去の記憶が障害されていきますが、病気の進行と伴に次第に遠い過去の記憶も失われていきます。
見当識障害
まず、時間関係の認識(時間、日付け、季節)が障害され、次いで、場所的な認識が障害されます(自分がどこにいるか分からない、外出すると家に帰れない、家の中でトイレの場所が分からない等)。
病識がない
自分が病気であることを自覚できないし、記憶障害があることを自覚できないので、「自分が物忘れすることを忘れているような態度」をとります。記憶障害を自覚していれば、メモなどの方法である程度対処できますが、その自覚がないので、記憶障害が原因で自分が引き起こした問題を問題だと理解できません。

アルツハイマー病の病期

アルツハイマー病は、徐々に発症し、症状がゆっくりと進行します。進行の程度に応じて、以下のとおり「病期」を区分することができます。

初期(軽度)

 記憶障害、時間や場所の見当識障害、遂行(実行)機能障害などが原因で生活に支障をきたす。出来事(エピソード)記憶のうち、近時記憶が障害され、出来事の内容だけでなく、出来事そのものを忘れるようになる(何を食べたかを忘れるだけでなく、食べたこと自体も忘れるようになる)。見当識は、時間から障害され、次いで日付が分からなくなる。季節感も徐々に失われる。

 妄想はこの時期から半数以上の例にみられ、物盗られ妄想が大部分を占める。

 生活能力では、BADL(基本的日常生活動作能力。歩行や移動、食事、更衣、入浴、排泄、整容など)は保たれているが、IADL(手段的日常生活動作能力。交通機関の利用や電話の応対、買い物、食事の支度、家事、洗濯、服薬管理、金銭管理などのより複雑な生活関連動作)の障害が出てくる。

中期(中等度)

 記憶は、少し前のエピソード(近時記憶)だけでなく、直前のことも覚えられなくなってくる(即時記憶障害)。昔のエピソード(遠隔記憶)は覚えていても、その詳細を忘れるようになる。手続き記憶(道具の使い方など)は保たれている。
 遂行機能が著しく障害され、新しいことを行えなくなる。

 多動(じっとしていなければならない状況で、過度に動きが多い状態のこと)、徘徊や暴力行為などの行動症状が盛んになる。初期からの妄想に加え、幻覚や多幸(一時的に精神が高揚し、激しく感謝の念を覚えたり、常識的には幸せを実感しえないことに対して笑みを浮かべるなど、内容がなく空虚な事柄についても楽天的に弛緩した気分を感じること)も見られるようになる。

 BADL(基本的日常生活動作能力。歩行や移動、食事、更衣、入浴、排泄、整容など)に障害が出始め、更衣自体は可能だが、状況に応じて適切な服を選ぶことができないなど、身の回りのことに援助が必要になる。

末期(重度)

 認知機能の低下に伴って失行(運動障害はなく手や足が動くのに、まとまった動作や行為ができないこと)や失認(感覚障害はないが、見たり聞いたり触ったりしてもそれが何か分からないこと)が顕著になり、BADL(基本的日常生活動作能力。歩行や移動、食事、更衣、入浴、排泄、整容など)の障害が進行する。

 歩行障害から寝たきりに向かって、運動機能が徐々に低下していく。筋の固縮や痙攣発作、ミオクローヌス(ある筋肉や筋肉群に起きる素早い稲妻のような収縮)もみられるようになる。妄想や幻覚、多動や徘徊などの行動・心理症状はあるが、活動性が低下するため、介護上の問題は低減していく。

 徐々に全失語(声は出るが、物の名前が言えない運動性失語や、言葉は出るものの意味が理解できない感覚性失語がある)の状態になり、言葉によるコミュニケーションが困難になる。

終末期

 睡眠・覚醒のパターンがあり、反射運動は保たれているが、随意運動はなくなり、四肢の関節は拘縮していく。開眼していても、しゃべれず無言、飲み込めず、無表情で、手足は動かず、除皮質姿勢(上肢は肘・手関節屈曲、下肢は伸展)で拘縮していく。発症して5年から15年程度でこのような状態になる。

 多くは、唾液を誤嚥して肺炎で死亡する。

アルツハイマー病の診断

 アルツハイマー病は、死後に、脳の切片を染色して顕微鏡で調べることでその診断が確定します(病理診断)。
 そのため、患者の生前には確定診断は行えず、臨床診断しかできません。臨床診断とは、症状をたずねたり(問診)、見たり(視診)、触ったり(触診)、聴いたり(聴診)、血液検査やレントゲン写真、内視鏡、エコー、MRIなどの結果を総合しての推定診断のことです。
 生前にアルツハイマー病と診断できるのは、認知症や認知症様症状を示す他の疾患をすべて否定して、更に、せん妄に代表される意識障害やうつ病などの精神疾患を除外できたときであるということになります。